FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--/--/--(--) | スポンサー広告 | トラックバック(-) | コメント(-)

唄ヲ紡グ、羽ノ音

 天使だけが集う其の場所に、1人のセージの少女が居た。

 彼女は何者にも敵わない『知識』と『魔力』を生まれ付いて持ち合わせており、誰もが欲しがる高位の座へと就いていた。

 適齢期となる『試練』を間近に控えた日、荷物を届ける為に研究室へと向かっていた。
 誰かが居る気配がしたのでノックをしようとドアに手を近付けると、中から話し声が聞こえて来た。


「出発が近付いていますね」
「そうだな。大事なブレーンを失う事となってしまうのは残念な事だ」
「全くです。彼女が居たから我々の研究も軌道に乗れた、かなりの役に立っていただけに・・・・・」


 その話を立ち聞きしてしまった彼女は、全速力で自分の部屋へと逃げて行ってしまった。


 彼女は話を聞いて、怒りよりも先に恐怖を感じていた。
 信じていた仲間だと思っていた。小競り合いも何度か起こした。
 それでも、仲間である事に変わりは無いと。

 思っていた、ハズだった。



 『大事ニ思ッテイルカラ、檻ノ中ニ閉ジ込メル?』



「嫌だ・・・・・・そんなのは絶対に嫌だ」

 ポツリと呟いて本棚から数十冊の本やら記録書やらを取り出すと、記憶を辿りながら目的の物を探し出した。


「・・・・・・・見付けた。コレだ」


 其れは、彼女にとっての『希望』だった。








 タイタニア転送室。

 入口に『関係者以外の立ち入りを禁ずる』と書いた紙を貼って転送室に入る。
 今の時間は未使用となっている事を事前に調べていたので、誰も居ない事に安堵の溜息を吐いた。

 あの会話を聞いて、猜疑心が確信へと変わったのだ。


 『自分は利用されるだけの為に生きている』・・・・・・と。



 名誉は要らない、知識が無くても困らない、自分の価値は捨ててやろう。







 魔力と身体を分離させると、淡い光で纏われた魔力体の彼女の姿が浮かび上がる。



「唄ヲ忘レル天使ノ言葉 輝ク欠片ヲ拾イ上ゲ 声高ラカニ謳イナサイ 声ガ嗄レテモ 詩ハ枯レナイ 天高ラカニ 響ク羽根ノ音」



 魔力体は歌とも詠唱とも取れる言葉を並べた。



 転送装置に身体を入れると、魔力体が身体に問い掛ける。

『準備は出来た様だな・・・「あたし」』

 魔力体が転送装置に入っている彼女に問い掛けた。

『こんな事で別れるとは思っていなかったけどな』

「お前だったら、どうしてた?」

『答える必要は無いだろう?だって、お前は・・・・・・・あたし、だからな』




 
















『心得て欲しい事が有る。お前が記憶に近付けば近付くほど、否が応も無く自分が見た真実に出会う。お前が自分の意志で記憶と力に会いに来る時まで・・・・・・全て、を。預かったからな』
















「・・・・・・・うーん・・・・・・」

 アクロニア平原の草むらに1人の天使族の少女が寝転がっていた。

「あ。朝・・・・・・・?」

 寝起きなのか、ボンヤリした思考回路をグルグルと回転させていた。


「・・・・・・・ドコだ、此処?・・・・・・・・いや、此処が何処かじゃなくて・・・・・・・・えっと・・・・・・・・あたしは何で此処に・・・・・・・いや、それよりも・・・・・・・」




 少女は何かを思い出そうと必死に頭の中を回転させていた。





「あたしは・・・・・・・・・・誰なんだ?」




 サッと血の気が引いて行くのが判った。


「適齢期が来たから、エミルの世界に『試練』を受けに降り立った・・・・・・・って、コレはタイタニアの常識だから忘れ様が無いな」

 まず、理解している事から順序立てて考え始めたが、タイタニアの常識しか思い出せない。
 自分の事が思い出せない。


「・・・・・・・・歌?」


 バッと顔を上げて何かを思い出した様子だったが、歌が何なのか判っていなかったものの、スッと深呼吸をして口を開いた。



「唄を忘れる天使の言葉 輝く欠片を拾い上げ 声高らかに謳いなさい 声が嗄れても 詩は枯れない 天高らかに 響く羽根の音・・・・・・・・って、何だこの歌?」



 無意識のまま1つのメロディーを歌い上げたものの、その歌が何の役に立つのかと云う根本的な所が判っていない。

 いよいよ頭を抱えそうになった時だった。



「素敵な歌詞ですね」
「そうだね~。綺麗な歌声だった!」


 少女の背後から誰かの声が聞こえ、驚いた様子で後を振り向くと、2人の女性が立っていた。

 1人は自分と同じタイタニアのフェンサー。1人はエミルのファーマー。


「ごめんなさい。妹が歩き回っている内に此処まで辿り着いてしまいましたの」
「えへ。こっちの方に自生している草が気になっちゃってさ!そしたら、この辺りから綺麗な歌声が聴こえて来たから、誘われる様に来ちゃったんだ」

「・・・・・・・」


 明け透けで素性を隠そうともしない2人に対し、少なくとも警戒心を抱いたのは間違い無い。

「歌の御礼・・・・・・・良かったらコレどうぞ!」
 ファーマーはリュックの中からサンドウィッチを取り出すと、少女に手渡した。

「妹の料理は美味しいですわよ」

と、フェンサーが付け足した。

 事実、サンドウィッチからは美味しそうな香りが漂っている。


「トセットちゃん、ボクらも御飯の時間だよ。そろそろ行こう?」
「そうですわね。では、貴女も道中気を付けて下さいね。行きましょうか、シロフォン」

 タイタニアのフェンサーは「トセット」、エミルのファーマーは「シロフォン」と云う名前を聞きながら、2人と別れた。




 少女は暫くボーッとしていたが、空腹に耐え兼ねてサンドイッチを口にした。


「・・・・・・・・美味しい」










 ダウンタウンの一角の借家に帰宅したトセットとシロフォン。

「疲れたー!!」
「シロフォン、行儀が悪いですよ?」

 部屋に入るなりベッドにゴロンと横になったシロフォンをトセットが注意した。

「だってー、今日も凄く歩き回ったりアイテムを集めたり忙しかったよー」
「まぁ・・・・・・確かにそうでしたわね。それにしても、平原で歌っていたあの方、お名前だけでも聞いておけば良かったですわね」

 先程の事を思い出し、トセットは少々残念そうに首を傾げた。

「名前は覚えていない」

「そっか。覚えていないのは仕方無いもんねー」
「シロフォン?誰と喋っているんですの?」
「え?トセットちゃんと・・・・・・・って、うわぁ!!?」


 トセットと話していたハズだったのだが、何時の間に先程出会った少女がドアの前に立っていた。

 さすがにトセットもシロフォンも驚きを隠せなかった。


「び、びっくりしたよ・・・・・・キミ、いつから居たの?」
「・・・・・・・探して、追い付いた」

 2人は顔を見合わせながら、どうしようかと言いたげに目で会話をするが、


「遠かったでしょう?座って休んで下さい。シロフォン、お茶を淹れてもらえます?」
「うん、お菓子も食べるでしょ?」

と、少女を招き入れた。











「・・・・・・・つまり、貴女は気が付いたら平原に居た。・・・・・・と、云う事ですのね?」

 トセットは空になったティーカップをソーサーに乗せると、シロフォンがポットを持って2杯目を淹れる。

「あぁ。試練を受けに来ている事は判っているんだが、其れ以外は全く思い出せない」

 そう言いながら、少女は出された紅茶にようやく手を伸ばす。単に冷めるのを待っていただけだった。

「そっか・・・・・・まだアクロニアに来たばかりだったのに大変だったんだね。トセットちゃん・・・・・・・この子とも一緒に住もうよ!」

 感極まったシロフォンは、少女の肩を抱きながらトセットに懇願した。

「・・・・・・・そうですね。貴女さえ宜しければ、此処に居候されても構いませんわよ?」

 トセットは少女に意思表示を求めた。
 少女は茶菓子を1つ食べ終えて、深呼吸する。


「その気持ちは有難いが・・・・・・・もし、あたしが厄介な問題とか抱えていたら、あんた達に迷惑を掛けるかも知れない・・・・・・・」


 申し訳無さそうに返事をしたが

「問題・・・・・・・私の非力さも問題ですわね・・・・・・・・未だにダンジョンに入れませんし・・・・・・・・」
「ボクなんて殆ど戦闘した事が無いから大問題だよっ!」

 トセットは自分の戦闘力の低さに落ち込み、シロフォンは吹っ切れた様に大笑いしている。



(変わった奴等・・・・・・・)




「それじゃ、ベッドと椅子を買って来なきゃいけないね。あと、服は・・・・・・・お下がりでも着れるよね?」

 少女の意見を聞かないうちに、シロフォンは嬉々としながら新しい居候の生活用品の買出しメモを用意する。

「お買物も大事ですが・・・・・・・彼女の名前は・・・・・・・どうしましょうか?」

 張り切っているシロフォンをやんわりと落ち着かせて、次なる問題に首を傾げた。

「そっか。名前さえも記憶に残っていないって言ってたもんね。ボク達で決めちゃってイイのかな?」

 右手にメモを握り締めながら、シロフォンも首を傾げる。

「・・・・・・・構わないさ。どのみち考えないといけない事だしな」

と、アッサリと承諾した。


「・・・・・・・・会った時に、不思議な歌を唄っていましたわよね?」
「そうだったね。あのまま飛んで行って、空に吸い込まれて行くんじゃないかと思ったぐらい綺麗だったね」


 そこまで話すと、2人は何か閃いた様子で顔を見合わせた。


「『羽根』・・・・・・」
「『歌』!!」


 2人はそれぞれ違う名前を口にしたのだが、少女は2つの名前を聞くと何度か繰り返してみた。


「羽根、歌。・・・・・・・・・羽根歌。ハネ、ウタ・・・・・・・・『ハネウタ』・・・・・?」


「ハネウタ・・・・・・ですか」
「ハネウタ。・・・・・・・イイ名前だねっ!」

 2人は自分の案を採用してもらえた事も含めて、少女の名前を気に入った様子だ。

「ハネウタ。ハネウタ・・・・・・・ハネウタ、ハネウタ・・・・・・・・」

 少女は。
 否、ハネウタは何度も自分に与えられた名前を繰り返す。


「私はトセットです。宜しくお願いしますわね、ハネウタ」
「ボクはシロフォン。フォンって呼んでねっ。ハネちゃん、ヨロシク!」
「あ・・・・・。あたしは・・・・・・・・ハネウタだ」





2007.07.27/Author:苑@丸投げ
スポンサーサイト

2007/07/27(金) | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0)

«  |  HOME  |  »

コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURL
http://bbeco.blog86.fc2.com/tb.php/83-94c9c8ff
 |  HOME  | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。